猫がゲージの鍵を器用にあけてしまうんです。

我が家では猫を飼っている。彼女の名前はフィービー。雑種だけど気高い雌猫だ。彼女との出会いは2年前だった。友人の家で飼っている猫に赤ちゃんが産まれたから、もらってくれないかと頼まれたのだ。最後に残った一匹だけ、どうしても貰い手が見つからないからと。私は母に飼いたいと頼んでみたけれど、もともと動物があまり好きでない母は許してはくれなかった。それまでの私だったらそこで引き下がっていただろう。だけどその子猫に会ったとき、これは大げさでなく絶対に運命だと思った。友人宅からそのまま子猫を連れ帰ったが、当然母はそれを許さなかった。「戻してきなさい」と言う母に、私は自分の部屋に立てこもって反抗したのだ。母の言いつけを守らなかったのはそれが初めてだったかもしれない。結局、家族には迷惑をかけないこと、私が自分でちゃんと面倒を見ることを絶対条件に、家で飼うことを許してもらったのだった。

…そんな顛末を、今誰が信じるだろう。母はあんなことがあったのが嘘みたいに、フィービーに首ったけだ。フィービーもフィービーで、かつては自分の命を脅かした存在である母に、一番なついている。まあ、ご飯を与える回数も私より母の方が多いので仕方ないかもしれないけれど。

そんなフィービー、彼女のおうちにと購入したゲージの鍵を、最近器用に開けてしまうので困っている。寝る時はゲージで寝かしつけていたのだけど、脱走してすぐに母の布団に潜り込んでしまうのだ。よりにもよって母の布団に。母は母で、「フィービーったら困った子ねぇ」とちっとも困っていない嬉しそうな様子で話すので、私は「はぁそうですか」という感じだ。フィービーと二人きりになるたびに、「お前をこの家に連れてきたのは、この私だよ。お母さんはお前を戻そうとしたんだからね」と吹聴するのだが、フィービーはどこ吹く風、それでも夜になると母の布団に忍び込むのだった。